東京高等裁判所 昭和54年(ラ)1494号 決定 1980年1月28日
抗告人 大沢武
主文
本件抗告を却下する。
理由
本件競落許可決定に対し抗告することができる者は、競売法三二条二項により準用される民訴法六八〇条一・二項、競売二七条四項に定める利害関係人、競落人又は競買人に限られるところ、記録によれば、抗告人は、右のいずれにも該当しないことが明らかである。
もっとも、抗告人提出の登記簿謄本には、本件不動産の所有名義は、現在は呉英変・その直前は抗告人と記載され、また抗告人から呉英変に対する所有権移転登記の原因は譲渡担保と記載されている。しかしながら、譲渡担保を登記原因とすることは、所有権移転の原因を示すにすぎず、登記としては完全な所有権移転の登記であって、抵当権設定登記のような所有権に対する制限の登記としての意味は、全く有しない。のみならず、譲渡担保契約の当事者間の問題として考えてみても、被担保債務の不履行により譲渡担保権者に所有権が終局的に帰属してしまっている場合もあり、この場合と、いまだ譲渡担保が設定されているにとどまっている場合とは、登記自体からは判別することができず、この点において、単なる担保権としての抵当権の設定登記とは事情を著しく異にし、これと同視することはおよそ不可能である。これを要するに、抗告人提出の登記簿謄本における記載をもって、抗告人につき民訴法六四八条四号の不動産上の権利者としてその権利の証明があったとすることはできない。
よって、本件抗告は、抗告権を有しない者の提起した不適法なものとして却下を免れないから、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 岡松行雄 裁判官 賀集唱 並木茂)